自分では気づかない、心の盲点

Book Column

~本当の自分を知る練習問題80~

池谷裕二 2016.1

読みやすさ★★★★★
リハビリ関連度★★★☆☆
エビデンス★★★★☆

今回紹介する本は池谷裕二先生の本です。

目次は多すぎるので割愛します。

というのもサブタイトルにあるように練習問題80問が紹介されています。

そのため読みやすさはかなり読みやすいです。

本書は認知バイアスを80種類紹介しています。

認知バイアスとは脳のクセだと思ってください。

この認知バイアスは進化の過程で脳が効率よく働くために進化したものと考えられます。

一見不合理に見える認知バイアスは悪いと紹介されている本も多いですが、進化の視点でみると必要なものなのです。

しかし、本書にも紹介されている通り人は自分のクセに無自覚という事実に無自覚です。

最大の未知は自分自身です。

せっかく人間に生まれたのだから自分自身の本当の姿に気づかないままなのは勿体ない!

ということで私の独断と偏見で練習問題の一部を紹介していきたいと思います。

やめられないとまらない

禁煙エリアでタバコを吸っている人がいます。

どちらの方が辞めてもらう確率が高いでしょうか?

①周りの人の迷惑になりますからおやめください。

②ここは禁煙エリアになっております。

A、②

単に「〇〇してください。」「〇〇をやめてください。」と言われれると「なんの権限で指図しているのか。」と反発したくなります。

これを心理的リアクタンス効果と言います。

更に①の場合だとガリギュラ効果も誘発されるため、心理的に言うことを聞いてくれる確率は少なくなると考えられます。

ガリギュラ効果とは禁止される程、それをやりたくなる効果のことです。

なにか物をお願いするためにはこの二つの心理的効果を利用すると話がうまく進むでしょう。

対象の耐えられない軽さ

これから面接に出かけるとします。

髪型をどちらに分けた方が好印象となるでしょうか?

①右分けの方が好印象

②左分けの方が好印象

A、①

右利きの人は左側の視野を重視します。

右脳の方が映像処理が得意だからです。

この問題の場合、左側に特徴のある右分けの方が印象に残ります。

というわけで身だしなみも右半身に気合を入れるべきです。

先日のpaper columnにも書いてありましたね。

この脳のクセを疑似的空間無視と言います。

気合!

コメディ番組を見ているとつい笑ってしまいます。では笑うのを我慢した場合、何が違ってくるでしょうか。

番組が終わった後に、ハンドグリップを力いっぱいに握るテストをしました。

どちらの方がハンドグリップを長く握り続けることができたでしょうか?

①笑い転げた方が長く握り続けられた。

②笑うのをこらえた方が長く握り続けられた。

A、①

感情を我慢していると20%もハンドグリップを握っていられる時間が減少したという研究を本書では紹介しています。

自制心や意志力は有限です。

頑張った後はやる気、忍耐力、道徳観さえも削がれてしまいます。

若い人ほどこの傾向が強くなるそうです。

朝と午後で比較すると午後の方が20%も嘘が増えるとのことです。

車を買うという一大決心をした後、営業マンが「今ならカーナビが安いですよ。」とかオプションを勧めてくるのは判断力が鈍っているからと言えます。

なにか大きな決断をした後は物事を深く考えるのは困難となります。

そんな時はブドウ糖を補給したり、当初の目標を思い出すことで回復します。

この認知バイアスを自我消耗と本書では紹介しています。

ところで余談ですが、皆さんはコーヒーは好きですか?

自我消耗で意思決定に影響があると理解していただけたと思いますが、コーヒ=を飲んだ後の意思決定にも注意が必要です。

コーヒーを飲んだ場合と飲まない場合ではコーヒーを飲んだ後の方が何らかの交渉で承諾を引き出しやすいという研究があります。

朝のコーヒーは至福のひと時ですが、何か重要な意思決定がある日は控えた方がいいのかもしれません。

生きるべきか死ぬべきか

火災報知器がなっています。

どちらの対応をとる人が多いでしょう?

①誤報かな?様子を見よう。

②火事だ!逃げよう!

A、①

これは前回のコラムを書かせていただいた疫病2020でも出てきました。

これが正常性バイアスです。

進化の過程では逃げるよりもその場でじっとしていた方が敵に見つかることなくやり過ごせた場合もあったと思います。

この「何もしない」という対応は現代においてはマイナスに働いてしまうバイアスのひとつです。

コロナウィルスが武漢で流行し始めた頃、専門家と称される人たちはこぞってこのバイアスにかかってしまっていた訳です。

バイアスの恐ろしいところを見事に表しています。

専門家ですらバイアスの落とし穴にかかってしまうのですから、日頃からバイアスを意識しながら生活するのも大切なことかもしれません。

外見だけでつかまえて

街で道に迷いました。近くに男が二人います。どちらに道を訊く人が多いでしょうか?

①さわやかな顔立ちの男性

②ぼさぼさの髪で無精ひげが生えている男性

A、①

脳は対象の全体をくまなく観察して判断することはなく、目立つ特徴に着目して判断されます。

これをハロー効果と言います。

人は見かけによらないというけれど、実際のところイケメン、美女が世の中生きやすくなっています。

逆ハロー効果もあります。

何ひとつ欠点があるとその特徴に着目されます。

臨床においても患者との関係を気づくうえで大切な認知バイアスでしょう。

そしてこのバイアスは強力に作用することが知られています。

歳と共に去りぬ

60歳以上の年輩者を二つのグループに分けて、次のような試験を行いました。

グループ1「これから心理テストを行います。」と説明して、24個の単語が並んだリストを眺めてもらいます。

グループ2「これから暗記テストを行います。」と説明して、24個の単語が並んだリストを眺めてもらいます。

その後別のリストを見せ、「先ほどのリストにあった単語をすべて挙げてください」と訊ねます。

どちらのグループがより多くの単語を正しく挙げたでしょうか?

①心理テストと説明したグループ1の方が多くの単語を覚えていた。

②暗記テストと説明したグループ2の方が多くの単語を覚えていた

A、①

年輩者は「歳をとると記憶力が落ちる」と信じています。するとその信念通りに記憶力は低下します。

どのグループも同じ記憶テストを行っていることが重要です。

心理テストと説明した場合は、年輩者も高得点を取れるという事実があります。

無意識のうちに自分に暗示をかけているのです。

例えば「忘れっぽい」「衰えた」「しわ」などの高齢者をイメージさせる単語を見るだけで若者の歩行速度が低下することが知られています。

逆も真です。

5分間老人の様に歩かせると、老齢に関する言葉を単語リストから見つけやすくなります。

これは医療現場で特に重要と本書では紹介されています。

皆さんご存じの通り、この認知バイアスを偽薬効果(プラシーボ効果)と言います。

この偽薬効果は信頼できる医者ほど、偽薬が高価であるほどよく効くことが知られています。

これは私達リハビリテーションの世界でも応用が利きそうですね。

お気に召すまま

両手にレバーを握ってもらいます。レバーにはボタンがついています。

好きな時に左右好きな方のボタンを自分の意志で自由に押してください。

この実験中、脳の活動を測定します。

手を動かす準備をする脳の活動タイミングは次のうちどちらでしょう?

①押したいと思ってから脳が準備を開始する。

②脳が押す準備を開始してから押したいと感じる。

A、②

脳は押そうと決める前に押す準備を始めています。脳回路が押す準備を整えてから押したいという気持ちが湧きあがります。

自由意志とは「後付け」の感情です。

脳を測定すれば少なくとも7秒前にはどちらのボタンを測定するかわかります。

意志は脳活動の結果でしかないのです。

これを自由意志錯覚といいます。

著者はこのバイアスについてこう語っています。

一見不思議に思えますが、よく考えれば当たり前です。なぜなら「脳がある活動をした。」ということはその活動を生み出す元となった活動も脳のどこかにあるはずだからです

どんな活動にも源流となった活動があるはずです。無からは何も生まれません。

押そう」という意思が発生したからには、その源流である「押そうという意思」を準備する事前活動が脳のどこかに存在しているのは自然なことです。

こうして心の上流をたどっていくといつしか「自分」という主体は脳活動という化学反応の渦潮に飲み込まれて消えてしまいます。

自由意志とはいったい何なのでしょうか?では心はどこから来るのでしょうか?

意志も心も化学反応という無機質なものなのでしょうか?

実はこれについて詳しく書かれた本も池谷先生は出版されています。

皆さんご存じかもしれませんが、「単純な脳、複雑な私」でという本です。

そちらも同時に読むと脳に対する理解度がグッと上がると思います。

感想

私はこの本が出版されてすぐに手に取り、読みました。

認知バイアスという言葉を知ったのもこの本で知ったと思います。

練習問題として認知バイアスを紹介していて今でも何回も読み返しています。

教科書的な感覚で「あのバイアスなんて言うんだっけな?」という時はこの本を開いて復習しています。

今では様々な所で認知バイアスの話題を聞くようになりました。

理学療法士、作業療法士向けのセミナーでも認知バイアスを紹介したり、応用しているものもありますよね。

認知バイアスとはいわば、人間の本質なのでこれを知ることが自分を知ることにつながります。

そして認知バイアスを知ることでその特性はいくらでも応用を効かせることができると私は思います。

今回は本の一部を紹介しましたが、本書は80問載っています。

その中には皆さんの目をひく認知バイアスがあるはずです。是非本書を手に取ってみてください。

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