腸と脳part1

Book Column

体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか

2018.7

エムラン・メイヤー著 高橋洋訳

目次
第一部身体というスーパーコンピューター
第一章リアルな心身の結びつき
第二章心と腸のコミュニケーション
第三章脳に話しかける腸
第四章微生物の言語

第二部直感と内臓感覚
第五章不健康な記憶
第六章情動の新たな理解
第七章直感的な判断

第三部脳腸相関のために
第八章食の役割
第九章猛威を振るうアメリカ的日常食
第十章健康を取り戻すために

読みやすさ★★★★☆
リハビリ関連度★☆☆☆☆
エビデンス度★★★★★

日々の業務お疲れ様です。

今回紹介する本は脳と腸です。

前回に引き続き脳に関する本ですが、今回は少し視点を変えて、腸が主役の本です。

著者はロサンゼルス在住ですが、アメリカ以外に16カ国で刊行されている注目の本です。

腸管神経系は「第二の脳」と学校でも習いましたが、想像をはるかに超える精巧なシステムが備わっていると本書では紹介されています。

5千万~1億もの神経細胞から構成される極めて重要な器官が腸です。

腸管神経系と微生物と脳は膨大な情報を24時間やり取りをしています。

この体内の会話が心身の健康に重要と本書では語られています。

現代人の腸内環境は荒れてきていますが、何が原因でどのような対策が必要なのか。

また、慢性疼痛、過敏性腸症候群、うつ病、不安障害、自閉症スペクトラム障害、パーキンソン病と腸内微生物にはどのような関係があるのでしょうか。

これらは本書を手に取ることで知ることが出来ます。

では早速、第一部を紹介していきます。



リアルな心身の結びつき

まず、本書において何回も出てくる言葉について紹介します。

マイクロバイオータ=微生物の集合を個体の観点から表す場合

マイクロバイオーム=微生物の集合を遺伝子の観点から表す場合

この二つが頻繁に出てきますが、混乱すると思います。

私も本を読みながら何度も確認しました(笑)

本書では腸と腸内に宿る兆単位の微生物、そして脳がいかに密に連絡を取り合っているかについて革新的な見方を提示しています。

著者は医学部時代から医療における従来のアプローチに満足していなかったそうです。

慢性疼痛、胃潰瘍、高血圧など、ごく普通の病気の発症に脳がどのように関わっているかについては何の言及もされていないことに驚かされたと語っています。

そこが著者の原点なのかもしれません。何気ないことに疑問を持ち、研究に没頭していきます。

特に消化器系と脳との繋がりについては従来の脳と腸が独立した器官としてみる機械的なモデルではなく、二つの組織が密接に関連しているとする。

脳腸相関という概念を重視しています。

最近の研究では腸はそこに宿る微生物との密接な相互作用を通して、基本的な情動、痛覚感受性、社会的な振る舞いに影響し、意思決定すら導くとしています。

消化器系は脳にも匹敵する能力を持ち、腸管神経系は脊髄に匹敵する5千万~1億の神経細胞で構成されます。

そのため第二の脳と呼ばれたりしています。

その中でも重要なのがセロトニンです。

セロトニンはうつ病などに関係していると考えられている神経伝達物質ですがそのセロトニンは95%が腸管神経叢に保有されています。

脳腸相関ではセロトニンが重要な役割を果たしていて、蠕動運動だけでなく睡眠、食欲、痛覚感受性、気分、全般的な健康に関しても必須の役割を担います。

消化するだけが目的ならなぜ腸にこのような機能が備わっているのでしょうか?

一つはあまり知られていませんが、腸の感覚器としての役割です。

腸から発せられるシグナルは脳に達し、満腹感、満足感、不快感、吐き気などを喚起する内臓感覚を生じさせます。

内臓感覚に対して脳が反応することを内臓刺激といい、これらの反応は脳の巨大なデータベースに蓄えられていき、何らかの判断を下す際に参照されます。

それは「何を食べるか」「何を飲むか」「どんな人と付き合うか」「仕事でどんな判断を下すか」を左右する可能性があります。



マイクロバイオームの夜明け

マイクロバイオームに注目が集まるようになったのは過去10年程度の話です。

マイクロバイオータの恩恵は私たちの健康に絶大な効果を及ぼします。

良く言及されるものに腸が消化できない食物成分の消化支援、化学物質の処理や解毒、病原侵入や増殖の防止などがあります。

マイクロバイオームの異変や攪乱は炎症性疾患、抗生剤の投与に起因する下痢、喘息などの様々な疾病を招きます。

腸内には100兆を超える微生物が生息していてマイクロバイオータを構成する1000種の細菌種は700万の遺伝子を持ちます。

これだけの莫大な遺伝子のおかげでマイクロバイオータは並外れた多様性があります。

この多様性は幼少期に低く、成人すると多様性が最も高くなります。

年齢を重ねるごとにその多様性も低下していき、パーキンソン病を始めとする神経変性疾患に関係していると言われています。

反対に幼少期ではマイクロバイオータが未発達なためIBSや周期性嘔吐症候群、不安障害などに関係すると言われています。



心と腸のコミュニケーション

激しい怒りを覚えた時、イライラする時、胃は激しく収縮します。

胃酸の分泌が増大し腸は捻じれて粘液、消化液を分泌します。

不安な時、動揺している時もパターンは異なりますが類似の胃腸反応が生じています。

脳で生じるいかなる情動反応は胃腸の活動に反映されることが現在では知られています。

胃カメラやCTなどで重い病気が見つからなければ、医者は大抵、患者の訴えを軽視します。

上記の事実を知っていれば、過敏性腸症候群や慢性の便秘、消化不良の原因が情動状態の反映である可能性を考慮することが出来るはずです。

その事実を知らない医師の方が多いのが現状です。

情動反応の中でも外的、内的な脅威に直面して不安や恐れを感じるとホメオスタシスを保つためにストレス反応が生じます。

ストレスが生じると消化管を含めた様々な身体組織の活動を最適化するために調整を図ります。

脳内の情動操作プログラムは、特定のシグナル分子を用います。

脳内で特定の化学物質が分泌されると、対応のプログラムが実行され、身体や腸に作用する。

脳の提供するシグナル分子には鎮痛作用を持ち、快楽をもたらすエンドルフィン。

欲求や動機に働きかけるドーパミン。

愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンなどが含まれます。

ストレスのマスタースイッチとして機能しているシグナル分子は副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)です。

ストレスプログラムが活性化されるとCRF-コルチゾール系の活動が高まり、生存に必要なあらゆる機能をコントロールします。

また、視床下部に働きかけ、不安や恐怖の感情を喚起する偏桃体にも拡散します。

偏桃体の活動は身体で動機、発汗、消化管では内容物を除去しようとする動きが出現します。

この反応が日常的に生じるようになってしまうと周期性嘔吐症候群や脳腸相関の障害を抱えるようになってしまいます。

こうした患者に対してはコルチゾールを抑える薬と嘔吐発作を抑える薬で劇的な改善が得られるということです。

余談ですが、周期性嘔吐症候群の患者は朝方に症状のピークとなります。

それはCRFが朝方に分泌のピークとなるからです。



脳に話しかける腸

大抵の人はほぼすべての内臓感覚に気づいていません。

消化管で集められた感覚情報の90%以上は意識にのぼることはありません。

迷走神経の求心性繊維を介して90%の情報をやり取りています。

遠心性のやり取りは10%程度です。

事実、脳の介入が無くても腸はその活動を維持することができます。

しかし、脳に情報が送られているため、意識することによって一部の内臓感覚を感じることが出来るのです。

最近の研究では味覚に関与する分子やメカニズムのいくつかは、口腔内のみでなく、消化管全体に分布していることが分かっています。

脳腸相関にどのうように関係しているかは今のところわずかにしかわかっていません。

甘味を検知するレセプターはグルコースを吸収促進、インシュリン分泌促進、脳へ満腹感を生むホルモンの分泌促進をしています。

苦味レセプターについては良く分かっていないのが現状です。

更に驚くべきことに嗅覚のレセプターも腸内に存在していると最近の研究が示しています。

嗅覚のレセプターは内分泌細胞に存在し、各種ホルモンのコントロールをしていると考えられています。

このような事実には驚きですが、では神経系はどのように腸内の重要な情報を取得しているのでしょうか?

まず、迷走神経が重要な役割を果たしています。

ニューロンそのものは消化壁の内部に存在し、内容物には直接接触していません。

消化の内部で生じる事象の検知は、特殊な内壁細胞が担当し、内壁細胞は媒介細胞、内分泌細胞にシグナルを送ります。

媒介細胞は迷走神経にシグナルを送ります。

消化管の内分泌細胞は数が非常に多く、極めて効率的に神経系にシグナルを送り、健康維持に重要な役割を果たしています。

胃や腸に存在する内分泌細胞は食物に含まれる化学物質の検知、マイクロバイオータが生成する化学物質の検知もしています。

消化管は人体で最も複雑な感覚器官のひとつなのであると著者は語っています。



微生物の言語

従来、消化ペプチド、消化ホルモンは胆嚢の収縮等をオンにしたりオフにする単純な化学的スイッチと考えられてきました。

しかし著者らは単純な化学的スイッチではなく、脳と腸、そして腸内微生物がこのシグナル分子を用いてコミュニケーションを取っていると主張しています。

1991年「消化ペプチドは普遍生物言語の言葉なのか」というタイトルで論文を出しています。

現在では科学的に証明されていますが、当時は周囲に理解されなかったようです。

最近になり消化器系は多様な情報を検知でき、そこから発せられた内臓感覚はホルモン、免疫系のシグナル分子、迷走神経の活動を通じて脳に伝えられるという新しい知見が広まりました。

臨床医は脳と腸のコミュニケーションの攪乱がIBSなどの発症に影響しているという新たな知見を手に入れて満足しましたが、著者は違いました。

うつ病、不安、自閉症スペクトラム障害にも関与していると考えていたのです。

脳と腸は密接に連絡を取り合っているため、そのように考えたのです。

マイクロバイオータはホルモン、神経伝達物質、代謝物質などの無数の小さな化合物からなる種々のシグナルを介して常に脳と連絡を取り合っています。

食物の残滓や胆汁酸、腸の粘膜を食べることでこれらのシグナルを生成しています。

これを微生物言語と呼んでいます。

ではなぜ腸内微生物や脳は高度なコミュニケーションシステムを必要としているのでしょうか?

その答えを説明するには太古の時代に遡る必要があります。

ここでは割愛しますが、興味のある方は是非本書を手に取ってみてくださいね!

これまでの説明で腸と脳のコミュニケーションにおいて腸内微生物が重要な役割を果たしているということが最近の調査で明らかになり、著者らはこの三つを統合的なシステムと捉えました。

本書では脳-腸-マイクロバイオーム相関と呼んでいます。

マイクロバイオームの著名な著者であるスタンフォード大学のデヴィッド・レルマンは「マイクロバイオータは人間の基本的な構成要素の一つである。」と述べています。

これだけでも驚きですが、さらには感情、脳の発達や老化、直感にも関与しているとわかってきています。

第二部ではそのことが書かれています。



感想

今回は第一部の紹介でした。

なかなか興味深い内容だと思います。

読みやすさはまずまずでページ数も多く、行間も詰まっているのですが、内容が面白いためスムーズに読むことが出来ます。

冒頭でも紹介しましたが、マイクロバイオーム、マイクロバイオータは混乱するので注意です(笑)

いずれにしても腸内微生物の事言ってんだなと思っておけばいいと思います。

リハビリ関連度はそこまでありませんが、排便コントロールで困っている患者さんは多いので本書で得た知識が役に立つことがあるかもしれません。

著者らの研究を織り交ぜつつ、症例の紹介もされているため高めの評価とさせていただきました。

今回紹介させていただいた本書は革新的な内容です。腸内微生物がそこまで重要な役割を果たしているなんて思いもしませんでした。

ましてやうつ病、不安障害、パーキンソン病に関係しているなんて、、、

最近では歯周病菌が認知症の発症に関係していると論文で発表されていましたが、腸内微生物も認知症の発症に何らかの関係があるのかもしれませんね。

自分たちが思っていたより身体は精巧にできているなと感じました。

今回も長くなってしまいましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。

次回は第二部の紹介です。内臓感覚と直感はどのように関係しているのか?

手短にまとめられるように頑張りますので楽しみにしていてください!



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