脳と身体の動的デザイン

運動・知覚の非線形力学と発達

多賀厳太郎著 2002.2.25

目次
一章;運動と自己組織化
二章;歩行における脳と環境の強結合
三章;身体の自由度問題と脳のバインディング問題
四章;初期発達過程におけるU字型現象
五章;脳と身体のデザイン原理

読みやすさ★★☆☆☆
エビデンス度★★★★☆
リハビリ関連度★★★★★

皆さんお疲れ様です。

今回紹介する本は自己組織化に関する本です。

自己組織化って聞いたことありますか?

ウィキペディアによると物質や個体が、系全体を俯瞰する能力を持たないのにも関わらず、個々の自律的な振る舞いの結果として、秩序を持つ大きな構造を作り出す現象と書かれています。

本書では運動と自己組織化についてがテーマとなっています。

私達、人間は何も考えずに運動をすることが出来ます。

脳が体を支配していて運動も脳からの指令で遂行されます。

という常識を覆す一冊になっています。

大筋はとても分かりやすく、読み進めやすいのですが、所々に専門的な知識が出てくるので読みづらさはあるかもしれません。

私も何日もかけて読みましたし、何回も読み直しています(笑)

歩行や運動について扱っている本なのでリハビリ関連度は高いと思います。

エビデンス度については研究に基づいた本ですので高めに設定しましたが、やや古めの本となっています。

では早速、内容を見ていきましょう!



運動と自己組織化

私たちの体は多くの細胞からできています。

そして細胞はものすごい数の分子から構成されます。

生きているというシステムがどうして無秩序に陥らないのでしょうか?

私達が運動をするとき、膨大な神経細胞、筋肉はどうやって秩序ある動きを作り出すのでしょうか?

第一章で著者は投げかけています。

物理学は物の状態に関する普遍的な法則性を見出そうとしてきました。

ニュートンは非生物の運動の法則を作り出し、力学として物理学の基礎をなしました。

しかしこれが生物に当てはまるのかということが問題になります。

量子力学で有名なシュレディンガーは生命から秩序が生み出される原理として2つの可能性を議論しています。

一つは「統計的な仕掛け」もう一つは「時計仕掛け」です。

現実的には「時計仕掛け」のほうが有力であろうとされています。

本書の中には非線形力学という言葉が良く出てきます。

非平衡状態でミクロな分子どうしの協力性からマクロな秩序が生み出さる機構が明らかにされています。

川の流れや雲の動きなどの自然界の変化も非平衡状態での自己組織的な秩序生成として説明できます。

こうした現象を理論的に扱う時に非線形力学系として扱われます。

非線形力学というと難しく感じますが、本書では細かいところまでは触れられていません。

私も勉強しようと思っているのですが、なかなか手が出ない分野です。(笑)

さて、非線形力学は何となくそんな感じかと思っていただいて自己組織化と運動についてみていきましょう。

ヒトや動物を制御という観点から論理的に考察したのはウィナーが初めてです。フィードバック制御はロボット制御、運動制御に大きな影響を及ぼしました。

一方で同じ本の中で自己組織化についても触れられています。

ウィナーはヒトの脳波のデータを解析しα波と呼ばれる周期的な活動成分を見出しました。

そしてこの現象が非線形相互作用による自己組織化現象として説明できるかもしれないと指摘しています。

蛍の群れはクリスマスツリーの様に一斉に点滅しているように見えます。

これは非線形振動子の引き込み現象と呼ばれ古くから知られていました。

ウィナーは脳が非線形振動子からなる系であり、引き込み現象が何らかの機能を担っているのではないかと考えました。

このアイディアが物理学でのパターン形成、自己組織、複雑系などの研究で発展していくこととなります。



非線形振動子の引き込み現象

引き込み現象は本書においても重要な事なのでもう少し詳しく見ていきましょう。

非線形振動子は線形振動子とはいくつかの点で本質的な違いを持っています。

例えば粘性力の働かない線形振動子にある初期条件を与えると、永遠に同じ振動数と振幅の振動を繰り返します。

外部から刺激を与えるとそれに応じて振動が変化します。

外部から周期的に揺らすと外部振動の周波数が振動子の固有振動数に近い場合、振幅が大きくなって共鳴現象を起こします。

ここで重要なのは結果として現れる振動は外部由来のものと内部由来のものの重ね合わせとして表現できるため線形振動子では蛍の引き込み現象は説明できません。

非線形振動子は外部からの一時的な外乱があってもしばらくすると元の振動状態に自律的に戻ることが出来ます。

安定的な振動状態を保つことが出来るということです。

非線形振動子は数学的には2変数の微分方程式で表すことができます。

変数が大きい時は粘性力が働いて値を小さくする。

変数が小さい時は負の粘性力が働いて値を大きくする。

という具合で絶妙なバランスが成立すると安定的な振動が生じます。

これをリミットサイクルアトラクターと呼びます。

これらの非線形振動子の引き込みは外力振動を引き込む強制引き込みや相互引き込みという現象が生じます。



制御としてみた運動

先ほど紹介したウィナーの考え方はフィードバック制御だけでなく、フィードフォワード制御、最適制御などへ拡張され、現代制御理論として確立しました。

脳神経系による運動制御機構はこうした制御理論に強い影響を受けています。

川人光男は身体はニュートン力学で表すことができるが、基本的には筋肉が発生する力や外界との相互作用に伴う力を入力してある運動軌跡を出力するという入出力関係がある。

計算理論の立場からある運動軌跡を実現したいとすれば、この入出力関数の逆関数を計算することでそれに必要な力を得ることができる。

この計算過程は逆ダイナミクスと呼ばれている。としています。

川人は小脳に身体の逆ダイナミクスモデルが学習を通して獲得されると主張しました。

逆ダイナミクスモデルが小脳にあれば任意の運動の遂行が可能となります。

小脳に内部モデルが存在することを支持する実験もあります。

ただこの内部モデルにはどのような運動を生成したらよいかということは含まれておらず、大脳皮質の別の部位が担うとされています。

運動生成においては非線形力学における自己組織の理論に分があります。

しかし制御理論と自己組織理論は折り合いの悪い概念であると著者は紹介しています。



神経振動子からなる神経回路網

スウェーデンのグルリーナは歩行パターンを作る脊髄の神経回路網の実態を明らかにしようとしています。

足からの感覚入力を断ち、脊髄を単離した状態にし、中脳からの下行性信号を模した神経伝達物質で脊髄を満たします。

すると歩行に対応するリズミックな活動が作られることが分かりました。

これがCPG( central pattern generator)と呼ばれるものです。

グルリーナは猫や魚のCPGに非線形振動子の引き込み現象がみられることを証明しました。

似たような機構は昆虫や他の脊椎動物にも見られます。

特ヤツメウナギは下等で徹底的に調べられています。

ヤツメウナギの遊泳パターンは、神経系の局所的な場所で作られるのではなく、体節にそって連なる非線形振動子の相互作用による自己組織的なパターン形成として作られます。

CPGの最小単位は神経振動子ということになりますが、ヤツメウナギは一個の神経細胞が神経振動子となっています。

猫の場合は神経細胞の集団が神経振動子を構成していると考えられます。

ここまでざっくりと神経振動子、非線形力学の引き込み現象など聞きなれないことを本書から抜粋して紹介してきています。

これらの知識から著者らは歩行における自己組織化についての理論を組み立てていきます。

その代表的なものがグローバルエントレイメントです。



グローバルエントレインメント

私達を取り巻く環境は多様で私たちが移動することで刻々と変化していきます。

路面は凹凸があり、坂道があり、階段があり、天候にも左右されます。

私達にとって環境は不確定性を含んでいます。

一度も転倒したことは無いという人はいないでしょうし、すべての環境が既知であるということはあり得ないはずです。

このような不確定性に対して私たちはどのようにして柔軟な対応ができているのでしょうか?

一つはいろいろな状況を経験し学習した結果、予測が可能にあらゆる状況に対応できるようになっていくというものです。

しかし私達は経験したことの無いことでもリアルタイムに対応しなければなりません。

もし経験がないからと言って失敗していたら生きていけないですよね。

もう一つの考え方はギブソンにより提案されたアフォーダンス理論です。

これは環境の変化がそれに応じた行動の変化を引き起こすというものです。

階段は階段に応じた歩行を坂道は坂道に応じた歩行を自然とアフォードします。

著者は1991年にヒト二足歩行に関するモデルを発表しています。

脳神経系、身体、環境がそれぞれ複雑なダイナミックスを持ち、それらの相互作用から環境の変動に安定的な柔軟な運動が、いわば自己組織的に生成されるという新しい制御原理を示しています。

これをグローバルエントレイメントと言います。

このグローバルエントレイメントを実現するためには身体の振り子やバネガ必須条件だと本書では記されています。

これは身体が固くてもダメだし、柔らかすぎてもダメということです。

運動生成における自己組織を促していくには身体の振り子、バネとしての特性を理解し、それを最大限に活かせるように身体を整えるのもリハビリテーションの役割だと思います。

身体の振り子やバネは一種の非線形振動子と捉えられます。

脳神経系も身体の非線形振動子から構成されていると考えればグローバルエントレイメントが起こるのは自然なことです。



脳と環境の強結合

歩行を作り出すのは脳神経系、身体、環境を自己組織的に時間空間パターンを生成するということがわかりました。

そしてグローバルエントレイメントにより脳神経系、身体、環境が強く相互作用し、その結果として運動が生成されるということが分かりました。

脳が運動を作るのでもなく、環境が運動を作るわけでもありません。

それら全体の非線形力学によって運動が自己組織的に生成されるものです。

いわば脳と環境は強結合した状態です。

ここまでは理解できたと思います。

もう一歩理解するには第三章を読むと理解が深まると著者は語っています。



感想/まとめ

本書は非線形力学、引き込み現象を用いて歩行、運動生成に対する自己組織化を紹介しています。

第三章以降はより専門的な内容となるため、ぜひ読んでみてください。

従来の運動制御理論に一石を投じている内容ですが、皆さんはどう思いましたか?

BiNIのセミナーに参加している人は聞き覚えのある内容だと思います。

そうでない人はあまり耳にしない内容だと思います。

本書にも書かれているように自己組織化と制御理論は折り合いの悪い理論です。

人間のすべてを語るうえでどちらか一つの理論を選ぶのは不可能だと思います。

私の考えとしては運動生成や歩行のような運動に対しては自己組織化理論に分があると思います。

それはcolumnでも紹介したようにいちいち学習したことしかできないのであれば生きていけないからです。

反対に前頭前皮質が発達した私達人類は運動をある程度制御できるとも考えています。

例えばスポーツ等で高度な技術を要する場合はそれが顕著だと思います。

それこそが運動学習しそれを自動化するという従来のリハビリテーションと同じような原理だと思います。

いずれにしても重要なのはどちらも知っているということだと思います。

多くの人にこの本を知って貰い、様々な意見が聞けると面白いと思います。

コメント欄にて皆さんの意見をお待ちしております(^-^)

改めて本書を読んでみて思ったのが、難しい。。。

それだけ奥が深い本だと思います。

皆さんも是非読んでみてくださいね!



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