リハビリの夜

Book Column

熊谷晋一郎著 2009.12

目次
序章リハビリキャンプ
1脳性麻痺という体験
2トレイナーとトレイニー
3リハビリの夜
4耽る
5動きの誕生
6隙間に「自由」が宿る

読みやすさ★★☆☆☆
リハビリ関連度★★★★☆
エビデンス★☆☆☆☆

今回紹介するのはリハビリの夜という本です。


この本は著者の熊谷晋一郎さんの体験に基づいて書かれています。


出生時に胎盤に異常があったせいで酸欠状態となり、脳の運動野にダメージが残りました。脳性麻痺と言われる病気です。

著者は脳性麻痺という障害を背負い、健常者を目指して幼い頃からリハビリを行なってきたそうです。


時にはリハビリキャンプと言われる合宿にも参加して熱心にリハビリを行なっています。

そこでのトレイナーとのやり取り、著者の心境、考察が印象的だったので紹介します。

リハビリキャンプ

著者が小学生の頃、毎年一週間程リハビリキャンプへ行っていたそうです。

施設に居る大人たちは著者の一挙手一投足をじっと見つめています。

「緊張が強いな、どうやって介入しようか」そんなまなざしだったと。そのまなざしが小学校では潜在化している「障害児」という自己イメージを引っ張り出したと語られています。

そんなキャンプでトレイナーは著者の体に「健常な動き」を与えようとしてさまざまな関わり方をしました。

以下の様にまとめられています。


Aほどきつつ拾いあう関係
Bまなざし/まなざされる関係
C加害/被害の関係

Aはトレイナーと著者が一体となって体の緊張を解きほぐしていきます。ほどいた結果、体の中にはあそびが生じます。


BではAで生じたあそびの中から健常の動きに近いものを選んで実行するよう仕向けられるます。

しかし運動目標を与えられると著者の体は焦りの気持ちで硬くなってしまいます。Aで生じた体のあそびが元に戻ってしまいます。


CはA⇔Bを繰り返す内にトレイナーは苛立ち、ストレッチをするにしても暴力的なストレッチになります。Aでは快感があったのが、Cでは痛みと恐怖しかなかったと作中で語られています。


上記の様に整理されたトレイナーとの関係は物語の後半にも詳しく書かれているためこの本においては重要なポイントとなっています。


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脳性麻痺治療の歴史

脳性麻痺治療の歴史を4期に分けて紹介しています。

長くなるので3期まで割愛させて頂きますが、現在は第4期にあたり、最新の脳科学に理論的根拠を求め、機能、構造レベルの回復を目指す動きがあるとの事です。彼らの熱意を評価しつつこう述べています。

「最新の科学の進歩を貧欲に取り込み続けることは、一見、誠実な臨床家の態度であるかのように見えるが、裏を返せば一貫した理論や実践が無く、常にアプローチが変容し続けるという危うさを持つからだ。」

皆さんはこの言葉にどのような考えを持つでしょうか?


私もどちらかと言えば、最新の科学的進歩を取り込みつつ、臨床に汎化したいと考えていました。


実際に臨床一年目と現在では臨床的考えも、アプローチ方法も変化しています。一貫性が無いと言われれば全くその通りだと思います。


理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などリハビリテーションを行う職種は日本で誕生してまだ50数年しか経っていません。そういう意味では発展途上の分野と捉えることが出来ますが、、、、


幼い頃からリハビリを受けている著者だからこその鋭い視点ですね。

皆が平等にリハビリテーションが受けられる世界が来ると良いですね。

身体内協応構造

作中では協応構造と言うワードが頻繁に出てきます。協応構造とは「私の体の動きを拾ってモノが反応するときの、その応答パターンのことである。」と説明しています。


物語の序盤は身体内協応構造と身体外協応構造の乖離に苦しみます。しかし繰り出す動きと外界に対してどのような変化をもたらすかを予期しながら自らの運動を行う事ができるようになっていったそうです。

それは「自由」と名付けても良いような体験だったとしています。

作中でも紹介されているように運動における自由とは「健常な動き」と言うものを習得することによって得られるものではなく、外界から介入されることなく、好きなように動けるという状況でも無い。

それは外界と協応構造を取り結びながら外界の応答に関する予期を先行させつつ自分の動きを繰り出せる状態の事である。

と結論付けています。

幼いころから著者は規範的な運動を押し付けられついには習得できませんでした。

しかし規範的な運動を解きほぐし、自分に合った運動を習得します。自身の内部モデル、環境との協応構造により運動の自由を手に入れたのです。

感想

この本も先日紹介した本と同じ2009年の本となっています。

上記に物語の魅力的の一部を紹介させていただきました。

本書は脳性麻痺をもち、規範的な運動イメージを押し付けられ、それを習得しきれなかった一人としてリハビリの現場、社会において暗黙の内に前提とされている「規範的な体の動かし方」というものを自分の経験を通して問い直すという内容になっています。

この本を読み終えた時、自分は患者様に対して適切な目標を立てられているだろうか?と思いました。


私達は健常者です。健常者の動きを正しいとしてリハビリテーションを行う事が多いと感じています。規範的な運動が必ずしも正しいというわけではないということをこの本は教えてくれます。


また、著者とトレイナーの関係をABCとまとめてありますが、私たちも容易にCの関係へと発展してしまう可能性を孕んでいます。注意しなければならないと感じました。


ちなみに著者は総合病院で働く医者でもあり、研修医時代の苦労や一人暮らしでの苦労も作中に語られています。生活期の患者様を見る機会が多い方には参考となるかもしれません。

著者の体験を官能的に表現している文章も多く、あまり読書をしないという方には読みづらいと感じるかもしれませんが、読んでいるうちに著者の世界観に引き込まれ、夢中になってしまいます。

また、著者の頭の中を表現した挿絵が特徴的です。得られるものが多い作品となっているので是非読んでみてください。

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