きみの脳はなぜ「愚かな選択」をしてしまうのか

Book Column

<意思決定の進化論>

ダグラス・Tケンリック
ヴラダス・グリスケヴィシウス 著
熊谷淳子 訳 2015.1

目次
第一章;合理性、不合理性、死んだケネディたち
第二章;七人の下位自己
第三章;家庭の経済学とウォール街の経済学のちがい
第四章;心のけむり感知器
第五章;現代の原始人
第六章;生き急いで若くして死ぬ
第七章;金色のポルシェ、緑の孔雀
第八章;性の経済学
第九章;深い合理性に寄生するもの

読みやすさ★★☆☆☆
リハビリ関連度★☆☆☆☆
エビデンス★★★★☆

今回紹介する本は行動経済学に関する本です。

厳密にいうと進化心理学の話になります。

経済学では人間は合理的な決定をする前提で理論が組み立てられていることが多いです。

しかし時にはそうならないのが人間です。

例えば、近くのスーパーで150円でキャベツが売っていたとします。

遠くのスーパーでは100円でキャベツが売っています。

皆さんはどちらのスーパーでキャベツを買いますか?

答えは人それぞれだと思いますが、合理経済学では遠くのスーパーで100円のキャベツを買うことを前提としています。

ところが人間の経済活動はそんなに単純なものではありません。

人間は合理的な経済人か?バイアスに振り回される愚か者か?

本書では冒頭から答えを出しています。

この本は「合理的な動物についての本だ」と紹介されています。

一見不合理に見える人間の意思決定は進化の過程でみると実は深い合理性にかなっているというのが本書の主張です。

今回はその一部を紹介していきたいと思います。

人は合理的なのか?不合理なのか?

うわべだけでみると人間の多くの選択は不合理に見えます。

人間が進化する上での目的は「適応度を最大化する」です。

この観点からみると一見不合理に見える選択も合理的に解釈することができます。

人間の意思決定は一連の全く異なる目標を達成するように設計されています。

著者らは一連の研究を行っていくうちにあることに気づきます。

それは頭の中には七人の下位自己が存在するということです。

七人の下位自己

マーチン・ルーサー・キング・・ジュニアは別名キング牧師と言われ、I have a dreamで知られる有名な演説で皆さんも知っていると思います。

キング牧師は様々な演説を行いましたが、とある演説中に観客が乱入しキング牧師を殴り飛ばしたという事件が起きます。

キング牧師はようやく立ち上がると殴り返すのではなく、生まれたての赤ん坊のように無防備に両腕をだらりとさげました。

キング牧師は「この人に手を出してはいけない。この人のために祈るのです。」と訴えました。

これはキング牧師が道義を重んじる人だったという数多くの中のひとつのエピソードです。

しかしキング牧師は自他ともに認める女たらしでした。

妻、子供がいるにも関わらず、乱れた異性関係を何回ももっていました。

キング牧師は乱れた異性関係について深い罪悪感を抱いていましたが、それでも何回も関係を重ねてしまっていたようです。

まるで別人の話を聞いているようですが、これはキング牧師に限らず普遍的な事なのです。

私達はたった一人の自己しかいないように見えますが、少なくとも七人の自己が存在すると本書は主張しています。

意識のより深いレベルに存在する七人の下位自己は様々な場面で見え隠れしています。

そして一度実権を握るとその下位自己に応じて好みや優先事項をすっかり変えてしまいます。

どの自己が指揮を執っているかによって意思決定が異なってくるのです。

この下位自己が代わる代わる指揮を執ることで一見不合理に見える選択をしてしまいます。

ではその七人の下位自己を紹介していきます。

①自己防衛の下位自己

この下位自己は身の危険にさらされたり、身体への危険が察知された場面で活性化されるだけでなく、人の怒った顔、怖い映画、犯罪が起こった地域のニュースを見ただけでも呼び覚まされます。

この下位自己が活性されると人混みに紛れたくなる衝動に駆られ、他人の意見に振り回されるようになります。

意思決定においては皆が好むものを選びがちになります。

②病気回避の下位自己

この下位自己は他人のくしゃみや咳を聞いたり、病変した皮膚を見たり、悪臭をかいだりすることで活性化します。

病気回避の下位自己が活性化されると病原体からの感染を防ぐため、普段より内向的になり、よそ者を受け付けなくなります。

カルロス・ナバレッテとダンフェスラーの研究によると女性は妊娠の最初の三ケ月よそ者をことのほか恐れるようになるとされています。

これは母体が病気にかかった場合、胎児に深刻な影響を及ぼす可能性がある時期と一致しています。

③協力関係の下位自己

この下位自己は友達から誕生日のお祝いメールが届いたり、食事に招待しようと思いついたり、同僚がランチをおごってくれた時に活性化されます。

友情関係が脅かされるときにも活性化されます。

協力関係の下位自己が活性化されると個人での消費より、他人と結びつけるものにお金を使うようになります。

友人が楽しむ活動をするように私たちを駆り立てます。

とにかく協力関係の下位自己は人に好かれたがり、友人扱いされたがります。

④地位の下位自己

この下位自己は自分がどこ階級に居るのか、上と下に誰がいるのかに敏感に反応します。

地位の下位自己が活性化されると成功した人と付き合うことに特別な価値を置き、人から軽蔑されることをことさら痛いと感じるようになります。

著者らの研究で地位の下位自己を賦活した時、ささいに思える侮辱でも攻撃性の爆発を引き起こしかねないことが分かっています。

とにかく地位の下位自己は人に尊敬されたがり、人を尊敬する理由を求めています。

⑤配偶者獲得の下位自己

この下位自己は現実、想像上の配偶者候補によって呼び覚まされる。

セクシーな広告やロマンチックな物語を読んだり、女性の下着を触っただけでも配偶者獲得の下位自己は呼び覚まされます。

この下位自己が賦活されると大多数が選ぶ方と反対のブランドを好むことが分かっています。

配偶者獲得の下位自己は男性と女性でいくぶん違いがある。

とにかくこの下位自己は恋人候補の目に自分がより望ましく映るような行動をしようと努める。

⑥配偶者保持の下位自己

この下位自己は伴侶が満足しているか惨めな思いをしているかについて敏感で長期にわたる関係を讃えたり、脅かしたりするきっかけにより活性化されます。

配偶者獲得の下位自己が活性化されると魅力的な異性に気を配るようになるが、配偶者保持の下位自己が活性化されると魅力的な同性に気を配るようになります。

とにかく配偶者保持の下位自己は二人の関係が長期にわたり順調に続くように努めます。

⑦親族療育の下位自己

この下位自己は自分の子供に囲まれているときや、よその愛らしい赤ん坊を目にしたり、子供の泣き声を聞くだけで活動することもあります。

親族療育の下位自己が活性化されると子供や孫に手を差し伸べる気にさせます。

とにかくこの下位自己は困っている弱く幼きものが適切な世話と注意を受けられるように努めます。

成長ピラミッド

皆さんも学生時代にマズローの有名な「欲求ピラミッド」を覚えていると思います。

これらの下位自己は欲求ピラミッドにきれいに当てはめることができます。

①が最下層に位置し、順番通りに積み重ねられ⑦が頂点にきます。

自己防衛の下位自己は一歳から出現している。いわゆる人見知りがが始まります。

そのもう少し後には病気回避の下位自己が出現します。

赤ちゃんの頃には何でも口に入れていたものが、病気回避の下位自己が出現することで初めて口にするものに嫌な顔をしたり、吐きだしたりするようになります。

配偶者獲得の下位自己は10歳頃に出現します。

このように年齢を重ねるごとに⑦に向かって下位自己が目覚めていきます。

感想

今回はアメリカの本を訳しているので言い回しが独特だったり、表現にくせがあるため、若干読みづらさがあります。

読んでて面白いのですが、頭に入りにくいため何度も読み返してしまいました。

読みごたえは十分あります。

リハビリ関連度はほとんどありません。

しかし人間を理解するうえで七人の下位自己は重要だと思います。

下位自己は言い換えると本能的欲求と捉えても良いかもしれません。

本能は無意識のうちに働くため自分が意識していることと全く異なる行動をとってしまいます。

だからと言って結婚して子供もいるのに浮気や不倫をしてしまって「配偶者獲得の下位自己が悪いんだ」といって納得する伴侶はいないと思います。(笑)

こういう知識は知っていることが重要だと私は考えます。

知っていることで誤った選択をしないで済むこともあると思います。

私も配偶者獲得の下位自己が働きやすい方だと思うので日頃から気を付けます。(笑)

臨床では自主トレーニングやリハビリを拒否する人がしばしば見受けられます。

これは不合理です。

なぜそのような選択をするのか?

もしかしたら七人の下位自己の誰かのせいかもしれません。

本書の後半では七人の下位自己についてさらに掘り下げて説明されています。

研究もばっちり紹介されています。

ただ、五年前の本ですので新しい知見が出ている可能性は大いにあります。

そして本書の最後には深い合理性に寄生するものと題して下位自己を悪用する人たちへの対処法も紹介されています。

こちらも興味深い内容となっていますので続きは本書を読んでみてくださいね。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

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